南国・石垣島にも、本格的な冬がやってくる瞬間があります。
1月下旬から2月にかけて、海から強く冷たい北風が吹き抜ける日、島の人たちはこう呟きます。
「あぁ、今年も『ムーチービーサ』が来たねぇ」
今回のテーマは、沖縄・八重山諸島に伝わる旧暦12月8日の行事「ムーチー(鬼餅)」について。

この時期、集落を歩くと漂ってくる独特のスパイシーな香りの正体とは?
そして、家族の健康を願うお餅の裏に隠された、背筋がゾッとするような「鬼退治」の伝説とは?
石垣島の冬の風物詩、その奥深い物語をご紹介します。
YouTubeで見たい方はこちら https://youtu.be/6nndw-C4rXo
1. 島に冬を告げる「ムーチービーサ」とは?
沖縄の方言で「ビーサ」は「寒さ」のこと。つまり「ムーチービーサ」とは「ムーチーの時期の寒さ」を指します。
不思議なことに、毎年この時期(旧暦12月8日前後)になると、まるで申し合わせたように気温がグッと下がります。
石垣島でも最低気温が10度台前半になることがあり、それまでTシャツで過ごしていた島民たちが、慌ててタンスからダウンジャケットを引っ張り出すのがこの季節です。
この寒さには、実は段階があります。
- 本(フン)ムーチービーサ: ムーチー当日に来る寒さ
- 若(ワカ)ムーチービーサ: その時期が終わった後に来る寒さ
島のおじぃやおばぁは、「この寒さが終われば、もうすぐ春が来るよ」と言います。
ムーチーを食べることは、厳しい冬を乗り越え、暖かい春を迎えるための大切な通過儀礼なのです。
2. なぜ「鬼餅」と書く? 兄妹の衝撃的な伝説
ムーチーは漢字で「鬼餅」と書きます。
単なる「厄除け」の餅になぜ「鬼」の字がつくのか。そこには、ある兄妹の悲しくも壮絶な物語がありました。
人食い鬼になった兄
昔々、首里に仲の良い兄妹が住んでいました。しかし、山(洞窟)へ移り住んだ兄は、やがて家畜や人を襲う「鬼」へと変わってしまいます。
その噂を聞いた妹は、悲しみながらも決意します。「兄を、私の手で止めなければならない」と。
鉄の餅と、妹の覚悟
旧暦の12月8日、妹は兄の好物である餅を持って山へ向かいました。
しかし、兄に渡した餅の中には、熱々に熱した「鉄の塊(または石)」が入っていたのです。
何も知らない兄は、鉄入りの餅に食らいつきます。「ガリッ!ゴリッ!」と歯が砕けそうになりながら苦しむ兄。
一方、妹は自分用に用意した普通の柔らかい餅を平然と食べます。
「お前の歯はどうなっているんだ!?」と驚く兄に対し、妹は着物の裾をまくり上げ、女性としての生命の源を見せつけて叫びました。
「私の『下の口』は、上の口よりも恐ろしいのよ! 鬼だって噛み砕いて飲み込んでしまうわ!」
その迫力と予期せぬ言葉に、鬼となった兄は「女とはなんと恐ろしい生き物か」と震え上がり、逃げようとして崖から転落。命を落としました。
伝説から生まれた風習
この「鬼退治の日」が旧暦の12月8日だったことから、人々は「鉄の餅」に見立てたムーチーを作り、鬼=厄(やく)を払うために食べるようになったのです。
3. 石垣島に息づく現代の風習
そんな激しい伝説とは裏腹に、現代の石垣島でのムーチーは、家族の愛に満ちた温かい行事です。
① 初(ハチ)ムーチー
その年に赤ちゃんが生まれた家庭では、初めて迎えるムーチーの日を盛大に祝います。
「うちの子が健康に育ちますように」という願いを込め、親戚やご近所、職場にまでムーチーを配って回ります。もらった方も幸せな気持ちになる、素敵な習慣です。
② 葉っぱは捨てずに「サンゲー」へ
ムーチーを包んでいる「サンニン(月桃)」の葉。食べ終わった後にすぐ捨てていませんか?
実はこれ、最強の魔除けになります。
- 食べ終わった葉を洗う
- 十字(クロス)の形に結ぶ
- 家の軒下や門の前に吊るす
これを「サンゲー」と呼びます。伝説の通り、「鬼が怖がって家に入ってこない」と言われているのです。
4. サンニンの葉の「知恵」
ムーチーを包むサンニン(月桃)の葉には、独特のスパイシーな香りがあります。
子供の頃は「薬っぽい匂い」と敬遠しがちですが、大人になると「この香りじゃないと!」と感じるから不思議です。
実はサンニンには、強力な「抗菌作用」や「防虫効果」があります。
科学的な保存料がなかった時代、高温多湿な沖縄で子供たちにお腹いっぱい餅を食べさせるために、先人たちが選んだ「天然のラッピング」だったのです。
そこには、鬼退治の伝説と共に、母たちの深い知恵と愛情が込められています。
まとめ
石垣島の冬の風物詩、ムーチー。
スーパーに行けば一年中お餅は買えますが、この時期に食べるムーチーは格別です。
もし冬に石垣島を訪れることがあれば、ぜひスーパーや市場でムーチーを手に取ってみてください。
その強い香りの奥には、数百年前から続く「家族を病気や災いから守りたい」という切実な祈りが込められています。
さあ、ムーチーを食べて、鬼をも跳ね返すパワーで今年一年を健康に過ごしましょう!
ブログ担当者のおすすめ:
紅芋味や黒糖味などバリエーションも豊富ですが、地元のおばぁが作った手作りムーチーは香りの強さが違います!ぜひ探してみてくださいね。
